血清蛋白分画を一瞬で読む方法

 

 


正常泳動図 (グロブリンピークの高さの順位)

 

 血清蛋白分画はルーチンで行われる検査の一つであるが、そのデータが十分に読まれ、活用されているかは甚だ疑わしい。各施設によってすこしずつ検査法が違い、従って基準値も同じでないから、一般的な出版物の基準値をそのまま使うことができないなどの点がネックとなって、あたらこの優れた検査のデータが持て余されているのではないかと思われる。

 そこで、実用上十分な精度は維持しながら、各分画の基準値などは知らなくても、一瞬でその異常を発見する簡単な方法を紹介する。まず、読む対象は(デンシトメトリーした)泳動図そのものに限ることとし、数値(%)で示される各分画の量はとりあえず捨てる。血清総蛋白(TP)も知らなくてよいこととする。

 正常グロブリン分画ではβ峰が一番高く(多いのはγである)、最も低いのがα1であること、およびβは他のピークに比べ疾患による影響を(相対的に)受け難いこと、この二つの大原則を利用する。

 すなわち、泳動図をパッと見て、まずα2がβより高いかどうかを見る。高ければ必ず異常であって、あらゆる炎症性機転---感染症、悪性腫瘍、膠原病、心筋梗塞など---もしくはネフローゼなどの高脂血症を意味しており、原則としてその高さは疾患の重症度(活動性)と一致する。

 次に、γがβより高いかどうかをみて、もし高ければ、それはあらゆる慢性疾患---肝疾患、膠原病、悪性腫瘍、慢性炎症(炎症の場合はα2の増高も併せ存在する)など---、それとM-bowを意味する。

 さらに、α1とα2の高さに逆転がないかどうかも確認しておく。もしあれば、それは溶血機転の存在---白血病、溶血性貧血、血栓、血管内凝固症候群(DIC)など---を示す。

 このようにして異常(正常)を確認したら、あとはその患者についてその異常部分がどのように増減するかを前の泳動図と比較する。そのためには、カルテの1ページに泳動図だけをずらりと並べて貼り付けるのがよい。

 以上述べた簡単な方法で血清蛋白分画からの情報の95パーセントは逃さないことを、私は経験的に確信している。 

(井上隆智、日常診療のためのワンポイントアドバイス500 1993 p 262 文光堂、東京)

 

付記:近年、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いた血清蛋白分画の研究が進み、従来のセルロース・アセテートを用いた電気泳動より精緻な泳動図が得られることがわかっている。CEによる血清蛋白分画ではアルブミンを含め、10個のピークが検出できるが、臨床応用にどの程度適するかについてははこれからの課題である(2018)。

 

練習問題(英文)

 

 

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