後腹膜血腫・・・腎生検による

 

 

 症例 
                      52歳 女性
                        IgA腎症に腎生検を実施                        

 

(泳動図の下の数字は腎生検からの経過日数)



データ (g/dL) 

after biopsy (d)

TP

Alb

α1-gl

α2-gl

β-gl

γ-gl

Hb (g/dL)

CRP

-4 

6.5

3.9

0.16

0.64

0.60

1.2

11.6

-

+8 

5.9

3.2

0.24

0.59

0.83

0.96

8.5

5+

+15 

5.9

3.2

0.25

0.45

0.86

1.1

8.5

2+

+22 

6.3

3.6

0.20

0.50

0.78

1.2

9.4

-

 

蛋白尿1+、腎機能正常の慢性腎炎患者に 7/4 腎生検を行った。腎生検翌日 7/4 には 37.1゚Cの発熱、7/7は 37.9゚C、検査後7日目 の7/11 に 38.8゚Cの発熱を最高として 14日目の7/18まで発熱が持続した。超音波検査で後腹膜の血腫が認められ、この熱はその吸収熱と考えられた。

コメント

腎生検は十分なケアを行えば危険な検査ではない。しかし、程度の差はあっても穿刺部位での内出血と血腫形成は完全には回避できない。
本例の術後のヘモグロビン (Hb) の低下量 3g/dLは前値11.6 g/dL の 27% に相当する。全血量を 4L と仮定すれば 27% は 1,000 mL 近くになる。計算上はこれだけの内出血があったことになる。血清蛋白像では検査後8日目の7/12で炎症を示す α1 の増加があり、検査後15日目、7/19 ではさらなるα1 の上昇と、顕著な α2 の低下を見た。α1 が増加し、α2 が低下するときは、炎症機転の進展と溶血機転が共存する病態があることを意味する。本例では、血腫内容物の融解や周辺組織の炎症が起こったことに加えて血腫から遊出するヘモグロビンを除去するためにハプトグロビン (Hp) が消費されて循環血液中から消失したことを示す所見である。さらに1週後の 7/22 ではこれらの異常は急速に回復してきている。

泳動図に現れたその他の変化の意味をを全部推理してみる

提示した4枚の泳動図は絶対量を示すようには補正してないから別の日の同じ分画の絶対値とを比べるためには表に示した量のデータを参照する必要がある。

1.
 アルブミンの量的低下は血腫への漏出による。アルブミンはターン・オーバーが長いからすぐには補いがつかない。

2.
 α2が量的には減っているのに泳動図上はピークを作っていることは次のように説明できる。α2を構成するα2-マクログロブリン (α2-M)と Hp はともに区別なく血腫へ漏れ出して失われたが、急性反応物質であるHp だけは炎症のため大量に産生されて循環血中に補給されて回復した。その結果、検査後8日目では α2分画が Hp 優位に構成が変わった。このときさらに溶血機転が加わったため Hp の増加も阻まれ、全体とすればα2分画は量的には増加しなかった。

3.
 β の術後の増加は失血性の鉄欠乏性貧血に対するトランスフェリン (Tf) の増加である。炎症に対して C3が増加している可能性もある。

4.
 γ 分画の低下は免疫グロブリンの血腫への漏出によるものである。

  以上でこの症例の泳動所見は一応全部解釈し得た思うが、残念ながら裏付けるデータがない。


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