リンパ球性間質性肺炎
症例
リンパ球性間質性肺炎(lymphocytic interstitial pneumonia; LIP) 49歳 女性
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g/dL, NA = data not available
臨床経過
診断は開胸肺生検によって確認した。
治療開始時白血球数 5,600 /立方ミリ、分画は好酸球、好塩基球それぞれ 1、骨髄球 1、桿状球12、多形核球58、リンパ球24、単球3 %。 骨髄所見は、白血球球系の減少と、赤芽球系の増加をみとめ、形質細胞数は 0.4 % と増加はなかった。治療は 40 mg/日 のプレドニゾロンを開始して3 ヶ月後右上の図のように改善したが、その後骨髄異形成症 (MDS)の状態となり死亡した。
コメント
本例は一般には比較的良性といわれるリンパ球性間質性肺炎LIP であるが、経過は悪性リンパ腫といってもよいほどのものであった。肺病変はその部分症状であったといえるだろう。シェーグレン症候群に続発するものや、HIV 感染の小児にみられるものを別とすれば、LIPは成人にはめずらしく、病気の本態もよくわかっていない。
LIP の特徴として肺でのリンパ球、形質細胞の増殖と高γグロブリン血症があげられる。本例にみられたように 6 g/dL にもなる高度なポリクローナルな γグロブリンの増加は他疾患ではまずみられないものである。 たとえば SLEなど自己免疫疾患でも 4 g/dL 程度が増加のほぼ上限値である。
最近になって著しい高γグロブリン血症が起こるメカニズムとして染色体の異常が関与する場合があることがわかってきた。バーキットリンパ腫などでは第 8 染色体と第14 染色体の間に転座 (t(8;14)) が起こっている (1)。 第 14 染色体には IgH、すなわち免疫グロブリン H 鎖 (heavy chain) の遺伝子群がある。何らかの原因、例えばEBV感染 (とマラリアの合併)または HIV の感染などによって本来は第 8 染色体 (8q24 という領域)にある癌原遺伝子 (proto-oncogene)であるc-myc が第 14 染色体のIgH 遺伝子の近傍 (14q32 領域) に転座すると活性化され過剰な免疫グロブリン産生が起こる。 一方、これとは対称的な染色体異常のケースとして、B 細胞性リンパ腫では本来第 18 染色体 (18q21 領域) にある遺伝子ファミリーbcl-2 が先述と同じ第 14 染色体の 14q32領域に転座していることがある (2)。 bcl-2 はアポトーシス(apoptosis) を抑制する遺伝子である。そのため、この転座が起こると第 14染色体からは B細胞のアポトーシスを妨げる指令が追加されることになって B 細胞、従って形質細胞が無用に生き続け、結局血清免疫グロブリンが異常な高値をとるというわけである。 bcl-2 の転座(遺伝子再構成)は濾胞性リンパ腫の約 2/3、びまん性リンパ腫の 20-30% にも存在する (3)。転座はいずれの場合も染色体に構造的変化をもたらすので、ひとたび発病すれば自力回復は不可能となる。 染色体異常の検査として今日では遺伝子自体はPCR、遺伝子発現は特異抗体、染色体転座は FISH (fluorescence in situ hybridization) などによって可能である。 本症例は少し古い症例でもあり染色体の検査がなされてないのは残念だが、高度な γグロブリンの増加、MDS への進展を考えれば上記のような染色体異常が起こっていた可能性は高い。
文献
1. Pear WS, et al. 6;7 chromosomal translocation in spontaneously arising rat mmunocytes: evidence for c-myc breakpoint clustering and correlation between isotypic expression and the c-myc target. Mol Cell Biol 1988;8:441-51.
2. Tsujimoto Y, et al. Cloning of the chromosome breakpoint of neoplastic B cells with the t(14;18) chromosome translocation. Science 1984;226:1097-9.
3. Pezzella F, Mason DY. The bcl-2 gene and 14;18 translocation in lymphoproliferative disorders. Nouv Rev Fr Hematol 1990; 32:397-9.
井上隆智 (Mar. 2003)