シェーグレン症候群

 

 

 

 

症例:原発性シェーグレン症候群  47歳 女性

 

現病歴

 たまたま健診にてリウマトイド因子が陽性が見つかった。以前から眼の乾燥感には気付いていた。腺外病変は発見されなかった。

 

 



表1

hi 

      g/dL

     TP

    Alb

  α1- gl

   α2 -gl

   β -gl

  γ -gl

 97/6/17

       7.9

    4.2

   0.21

   0.70

    0.81

    1.94

 98/8/19

      6..5

    4.0

   0.16

   0.58

     0.68

    1.04

 01/11/15

      7.4

         4.5

   0.19

   0.62

         0.75

         1.32

 



表2

 

  mg/dL

    CRP

  α1- AT

   Hp

IgG 

    IgA

   IgM

 A-SS-A Ab

 97/6/17

    0.9

     166.0

 147.0

 2090

    370

   147

      256×

 98/8/19

  0.1

     131.0

96.00

  1270

    260

    58

       64×

 


 

経過 

 97年6月から98年6月まで1年間プレドニゾロン15mg/日を経口投与、以後減量して、5mg/日を維持量とし4年続けて投与中で、乾燥症状をほとんど自覚しなくなり、ガンマグロブリンc値は1.3g/dL程度の基準値限界内に安定して再増加傾向もない。
Schirmer testは治療1年で右8mmから9mmへ、左4mmから10mmに改善した。口唇小唾液腺生検結果の治療前成績は Chisholm-Masson grading の class II、治療開始1年後で class は変わらなかったが細胞浸潤の程度は明らかに改善していた。(註 class II; 4 平方ミリに1カ所のリンパ球浸潤のfocusがあること)



 

コメント  

 泳動図の変化で見る限り経口ステロイドがシェーグレン症候群(SS)の病態に大きな変化を与えていることは明らかである。要はそれが臨床的な改善に結びつくかどうかということと、少量であっても副作用を無視できるかどうかということがステロイド使用の当否を決める。教科書的に見ても、これに対する明快な答えはない。一般的には腺外病変を起こしていない本症にステロイドを使用する正当性はないと説かれていることが多い (1)。  
 しかし、その根拠(evidence)は示されていない。SSに対するステロイドなどの薬効は乾燥症を長期的に阻止できるかどうかで判断すべきであるが、これは容易なことではなく、この見地に立った二重盲験は言うに及ばず、しかるべきオープンスタディーすら見あたらない (2)。 短期的にはSchirmerテストなど外分泌の改善の有無や、小唾液腺生検結果などを薬効を見る指標にするのだがこれで本症の本質的な問題である乾燥症の長期予後を占うのは難しい。端的に言えば、根拠(negative evidence)もなくステロイド治療は排除されているのである。短期的には効果が不十分だからといって、また、10年、20年も先の長期的効果は知りようがないということでステロイド治療を「無意味」と決めつけてよいものかどうか。
 薬剤投与の可否を決めるもう一つの要因である副作用について言えばステロイドを少量長期維持で投与するSLEなど他疾患でいくつかの成績があり、5mg程度の維持量はそれ自体重大な副作用をもたらさないとされ、決定的な排除要因にはならないだろう。
 本症に見られる高ガンマグロブリン血症の発生機序はわかっていない。自己免疫疾患における多クローン性のB細胞活性化かも知れないし、慢性炎症機転の関与が重要かも知れない。あるいはリンパ腫の前段階のようなものという可能性も考えられなくはない。
 いずれにしろ、ステロイドは本症の高ガンマグロブリン血症を劇的に抑制し、維持投与によってその効果を持続させることが出来る。常識的にいって高ガンマグロブリン血症の改善は疾患自体の改善であると見るべきである。以上のような視点に立てばSSに対するステロイドの使用を再評価する価値は十分にある。血清ガンマグロブリンの変化について考察することなしに本症の治療を論ずべきではない。



文献

1. アメリカリウマチ財団編.リウマチ入門第11版. 日本リウマチ学会、東京 1999: pp388-94.
2. Fox PC, et al. Prednisolone and piroxicam for treatment of primary Sjogren's syndrome. Clin Exp Rheumatol. 1993:11;140-56..  


                 

                                                      井上隆智

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