それなりの再生装置とは



  私の書斎へようこそ! (壁の絵はクラスメート田所浩画伯の作品)

まえがき

  ”本物の”オーディオマニアの音を聴いたことがありますか。私は今のスピーカーを買ってしばらく経った1980年頃、オーディオマニアの友人Kさんに連れられて大阪長居の  I さんという超マニアの家を訪ね、ふた間ぶち抜きで造られた総コンクリートホーンの音を聴かせてもらったことがあります。ホーンの開口部は2メートル近くあったでしょうか。左右の高、中、低音3ウェイをドライブする計6系統の真空管アンプは三段の鉄のラックに収納されていていました。I さんはさりげなくパン・フルートを聴かせてくれました。それは空を吹き抜ける風のように軽やかに聞こえました。そして何故かその時は「ツァラトゥストラ(のオルガン)を聴かせて欲しい」などというアホな注文はできない雰囲気でした。そして以後、あの笛の音は何だったのだろう、とずっと思ってきました。あれが五味康祐氏が拒否した”音があって舞台がない”ファントムの美音だったのでしょうか。そんなことがあって、そのとき、そしてそれ以後も、私のタンノイも満更ではないという思いだけはは変わらず持ち続けているのです。

本文

   オーディオの話をするときは、私が何を基準に音の善し悪しを語っているかを知っておいてもらなければなりません。その基準としてまず問題になるのは私の音楽的感性です。本当はこの評価こそが大事なのですが、ここではこれについては勘弁してもらいます。そうして、もう一つのファクターが使っているオーディオ機器です。実はこれを公表するのが一番辛いところなのですが、私の話の客観性を確保するため、あえてここで紹介してしまいます。

 オーディオに詳しい人、特にハイエンド・オーディオの世界からみると「なーんだ」というほどのものです。あるいはそれ以下かも知れません。逆に、ポップスも聴くけれども、ちょっといい音でクラシックも聴いてみようか、くらいに思っている方がみると、「えー、案外たいそうなこっちゃなあ」と思われるのかも知れません。ま、とにかく現用装置を紹介します。音の入り口から順番にメーカーと機種番号を;

 

   レコードプレーヤー   自分でアセンブル  トップページで写真を紹介済み

   CDプレーヤー      デノン          DCD-1650SR

   プリメインアンプ      アキュフェーズ         E-305V

   スピーカー         タンノイ            ランカスター (12" HPD 入りオリジナル:写真)

                                 ヤマハ          NS-10M PRO  (ペアは左右対称に作られているのが自慢:写真)

  部屋             書斎兼用の洋室17.5畳: 床はコンクリート土台に直付け、木製天井の高さ3メートル。三壁面は合わせガラス)

  その他          アンプとDACを介して繋いだパソコン。テープ・デッキ、FMチューナーなど小物。

  

 音の値打ちをお金ではかるのはまったく「いかがなものか」と思いますが、一つの目安としてあえて申し上げます。これで、スピーカー込みの機械全部の新品当時の実勢価格で70万円はかかってません。スピーカーは1975年頃、当時の価格で一本(片側)12万円ほどでした(今も中古でもそれ位します。)

 それでも 「あまりにも高いではないか。クラシックを聴くのをあきらめよう」 などとは決して思わないでください。これでも40年以上もオーディオに凝ってきた上での一つの結論なのですから。ですが、私は、今ならこの半額の出費でかなり納得のいく音が出せるのではないかとも思っています。たとえば、私のCDプレーヤーは実勢価格で7万円あまりのものですが、同じメーカーがこの半額で出している製品でさえ、十年前に百万円した品物にも匹敵するといわれています。デジタル技術の進歩のおかげです。

  現在市販されている中、高級アンプはLPレコードを再生するための回路(イコライザーアンプとヘッドアンプ)を省いているのがふつうです。私のアンプは少し古い(1992年製)ものですから、すべて揃っています。私は医者ですが、その昔健康診断のバイトの日当が2千円の時、それを全部つぎ込んでやっと一枚が買えたLPレコードを今でも大事にしていますので、このアンプは手放せません。それに、130ワット×2(8Ω負荷)の出力は大音響派の私にも十分な馬力ですし、反面ピアニッシモ(ごく小さい音)が美しくとても素敵なアンプです。

  私のアンプ歴は、まずはソニーのステレオラジオに始まり、トリオのTW-31、ラックスのSQ-505X、ラックス・キットと進んで、このアンプの直前は、先輩オーディオ・マニアから払い下げてもらったマッキントッシュ(マッキン)のアンプを愛用していましたが、いまは引退させました。プリ、C-28,メイン、Pー2105のコンビです。今となっては、この超高級アンプも現用の私のアンプに及ばなくなってしまいました。マッキンは1965年当時の世界最高級製品の一つなのですが、初期のステレオレコードの貧困な音を何とかうまく鳴らせるように工夫して作ってあるためか音にすこし癖があります。しかし値段だけの話をすればこのマッキンは公務員の初任月給の10倍は超えていました。なお、現在の国産のアンプは10万円出せば、かなり満足できる音が出せると思います。

 ステレオ装置の音の八割はスピーカーで決まり、アンプが音を変える割合は一、二割だとものの本には書かれているようです。そうでしょうか?この言い方は誤解を生みやすいと思います。私に言わせれば、スピーカーもアンプもそれぞれ別の意味で百パーセント装置の音を支配します。どっちが大事か決められません。アンプについて言えば、私の乏しいアンプ歴で一番音が変わったと感じたのは1972年、  SQ-505Xを買ったときでした。オーディオ入門者として3年ほど使ってきたTW-31がこれほど惨めな音だったとは。それはラックスで一枚目のレコードを聴いた瞬間にわかりました。当時私のスピーカーは指定箱入りのパイオニアのフルレンジPE-16にスーパー・ツィーターとしてナショナルの5HH17を組み合わせたものでしたが、この時、レベル以下のアンプで鳴らせばどんなスピーカーでもろくな音はしないこということを悟りました。トリオのTW-31はアメリカへ輸出して評判をとったというTW-61の性能を落とさずコスト・ダウンをはかった普及機だから”安いが音はよい”という触れ込みでした。でもこれは結果的に嘘でした。TW-61はいざ知らず、TW-31 はオーディオ用と称するにはあまりに力不足、悪くいえば安物だったのです。因みにTW-31は当時私の月給の三分の二もしました。SQ-505Xは少し昇給していた月給一ヶ月分あまりしました。 

 さて、、40年前なら、家計を傾けるほどの投資しなければ聴けなかった音が、今は、初任給プラスアルファぐらいの出費で聴くことが出来ます。付け加えますが、音楽を本当に楽しむのなら、せめて、この”初任給プラスアルファ”ぐらいの装置・・・安価でも本格的なスピーカーとアンプ・・・の線は守ってほしいのです。家電量販店に沢山並んでいる3,4万円ほどのお手軽ステレオセットで間に合わせてはいけません。音楽を一生の友と出来るかどうかの決定的な分岐点がここにあるのですから。

  なお、どうしてもこだわりたいこととしてスピーカーの大きがあります。イギリスのスピーカーが良いとか、アメリカ東海岸の音こそが本物だとか、高級品にはうるさい注文がつきますが、そんなことよりスピーカー・システムにまず求められるのは”大きいこと”だと私は思います。エンクロージャー(箱)もユニットもです。出来ることなら小さくても据え置き型を、ブック・シェルフ・スピーカーなら出来るだけ大きなものを、この原則は絶対のものです。”伸びやかに鳴る”ためにはある程度の大きさが必要です。小さいブック・シェルフ・スピーカーは、それをうまく鳴らすために馬力の大きいアンプが必要になるなど、何がしか使い方のコツが必要になり、案外扱いにくものです。私の二つのスピーカー、タンノイ・ランカスターに対しヤ小さいマハの10Mば、部屋の広さにも助けられて、あまり聴き劣りしない鳴り方をします。しかし、小さいが故に一所懸命鳴っている感がぬぐえず、長く聴いていると疲れます。音はモニターされるべきものですが、音楽はモニターするものではありません。

  さて、では私のこのステレオはどのような”音”がするのでしょうか。こればかりは私の部屋へ来て頂くほかありません。ただ一つ確かに言えることは、この装置を今の部屋にセットしてから約15年、私は、「まあこんなものだろう」と満足して聴いているということです。タンノイ・ランカスターの”他をもって代え難い音”はずっと、私のお気に入りなのです。

  音楽会で生演奏を聴いてみて、ピアノや室内楽、小さいオーケストラ、たとえばイ・ムジッチ合奏団程度の規模の演奏ならその雰囲気までほとんど私のこの装置で再現出来る、と私は思っています。友人でオペラ歌手の帯刀享子さんが歌う”宵待草”(*註1)などを聴くと、まるで彼女が目の前でで歌っているように聴こえます。目の前で彼女が歌うのを聴く機会があるので、間違いありません。これに対し、ウィーンフィルを再生しようなどと思えば、値段が私の10倍以上する機械でもまったく無理でしょう。広い音楽ホールに入ったときの空気の揺らぎ、フルオーケストラの音の奥行きと広がり、ダイナミックさと静けさ、あれはとても小さい部屋で、たかだか100ワットのアンプや30センチのスピーカーでは鳴りません。音楽ではなく、音に限ってわかりやすくたとえれば、元の生演奏の音のどれくらい、何パーセントくらいが再生できているか、これはあくまで感覚的に捉えた個人的感想ですが、SP時代は10パーセント以下、LPモノルノ時代で30パーセント、ステレオになって50パーセント。CDの今で55パーセント。あとは当分いくらがんばっても60点を取るのは無理でしょう。どこかのメーカーが部屋ごとワンセットで音楽部屋三億円などとして売り出せば別でしょうけど。

 たった1パーセント音を増やす?ことに千万円。それがハイエンド(のお金持ち)オーディオ・マニアの世界なのです。多くはブランド品で非常に高価。まあそういうものを集める悪趣味もまた”趣味”なのですから他人がとやかく言うことではありません。

 だから、私たちは安心して安い機械で楽しみましょう。先に述べたように安くても安物(*註2)でないものを。部屋の状態にもよりますが、そうすればかなりよい音で音楽を聴くことが出来ます。ちょっとでもいい音に、とセッティングなどに工夫をこらすことが楽しいのです。それこそが本当の”趣味”だと私は思います。

*註1: CD 帯刀享子&七瀬りりこ ”Brillante" 5k-218031  2013年の優秀録音

 

*註2&付記:安価な装置の音はすなわち音も安物であるかどうかについての一考察

 下の写真は知る人ぞ知る、価格が2,800円というとびきり安価なパワー・アンプです。メーカー型番は Lepy LP-V3s、 日本ブランドではありません。使われているTDA8566というパワーICがBOSE(PHILLIPS製)ブランドだと謳っている(実は東芝TA8254?)こともあってか、このアンプはネットで高い評価を受けています。孫へのプレゼントを探していて見つけました。写真では一人前の大きさに見えますが、本当は写真の右端に写っているUSB端子から想像できる通りです。電源アダプターを除いたアンプ本体の重さは約280グラムしかありません。吹けば飛びそうです。因みに私のアキュフェーズは22.7キログラムあります。バカみたいな値段や保証書、製品番号がないことなどからおもちゃじゃないかと思われそうですが、そうでない証拠に、オーディオ製品としてのスペックが段ボールの外箱にプリントされていて、そこには出力25W×2(4Ω)、周波数特性20-20kHzで全高調波歪率<0.4%、S/N<80dBとありました。BOSE社の控えめな公称値をそのまま引き写しているだけかも知れませんが、これらは現代の単品アンプの水準からすれば二けたほど格下で、日本メーカーがこのスペックで売れば誰も買いません。音量調節つまみは内部配線と絶縁されていない導体(金属)です。ボリュームを最大にしてから触ると「ジー」という雑音が出るのでわかります。ボリュームつまみは小さくてつるつるで大変扱いにくいのですが、これは輪ゴムを二重にして巻きつければ滑らなくなり、絶縁問題ともども解決できます。一方、昔の安価なアンプにはありがちだったスイッチオン、オフ時のショック・ノイズはクリアされています。当たり前と言えばそれまでですが、スピーカー出力コードを誤ってショートさせてパワートランジスタを吹っ飛ばすなどという古典的な事故は起こりません(でした)。なお、うわさ通り入力(または出力)の左右表示は三台買って三台とも世界の常識の逆でした(確信犯?)。私はこのアンプの一台をパソコン用として導入しました。いつの間にかパソコン周りに幾つか転がっているアクティブ・スピーカーの貧困な音にはほとほと愛想をつかしていましたので、パソコン・デスクに置いても邪魔にならず、しかもそこそこの音を出すアンプを捜していたのです。念願かなって、これをFOSTEXの8センチフルレンジ・スピーカーP-800K((下記)に繋いで使うことにしました。最初こわごわのスイッチ・オンで左右両方のスピーカーからしっかりと(雑)音が出ただけでも感激でしたが、さらに、★らじるらじるで聴くFMなどネットの音楽をはじめ、CD再生などでもこのアンプの音は期待を裏切りませんでした。(世間ではでより評価の高い同じLepyのLP-2024A++もしばらく聴いてみましたが、このLP-V3Sが音質、馬力、操作性のいずれにおいても優れています。

 FOSTEXからオーディオ初心者用と称する可愛いスピカーシステム・キットが販売されています。指定エンクロージャー(箱=P800E)に8センチスピーカー.ユニットを自分でマウントするものです。箱とスピーカを合わせて、保護グリル込み左右一組でたった6千円ほどです。このスピーカーとLepyアンプを組み合わせた小さいステレオ・システムから出てくる音は、なかなかのものです。スピーカーが小さいので重低音と空気感を求めるのは無理というものですが、全体として音の品位は高く、グランドピアノがおもちゃのピアノに成り下がることなくて存在感を何とか表現します。さらに驚くべき事ですが、このチビ・システムからはハイレゾ音源であるDSDリマスター盤CDとオリジナル旧盤との音の違いを聞き分けることが出来ます(註の註)。(2014夏、2015春改訂)。

 註さの註:比較したCD;  オリジナル盤=さだまさし、「帰郷」; DSDリマスター盤=さだまさし、「天晴」 (両者には同じ曲の同じ演奏の音源が使われている。)

Lepy LP-V3S: 3台買ったからわかる。3台全てどこか機械的に問題がある。工業製品としては超安物だが、音は考えようだがまあいける。

後方はFostxのP800KとP800Eの セット。12(W)X18(H)X24(D), 重量約1Kg.。パソコン用としては十分な音がする。


 

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